● 地域の現状・課題
- 前潟干潟研究会が活動する大野瀬戸は、広島湾奥に位置する海峡であり、日本三景の安芸の宮島と対岸の廿日市市との間にある。カキの産地として全国に名をはせるが、アサリも「大野あさり」の愛称で親しまれている。
- 廿日市市のアサリ漁獲量は県内一であり、県内生産量のおよそ半分を占めている。しかし、漁獲量はピークにあった昭和51年876トンの1/10以下まで落ち込んでいる。
- 干潟の減少、海域の貧栄養化、クロダイ等による食害など、複合的な要因が考えられているが、現在問題となっているのは、資源の大幅な減少による親貝の不足と、それに伴う稚貝供給量の低下である。
廿日市市におけるアサリ漁獲量(トン)の推移
アサリ資源再生の課題と対策
● 活動の内容
- 親貝不足を解消するため、被覆網を活用した食害対策を導入したが、回復には至らなかった。「前潟干潟研究会」を平成25年に結成し、地元稚貝の確保・保全を目標に取り組みを開始した。
- 春先(5~6 月前半)に米粒大のアサリ稚貝が数多くみられるが、6 月を過ぎた頃から食害などの被害が顕著になり、大幅に減少して7月には消失する。そこで、春先に見られる稚貝を砂ごと採取・確保し、保護・育成する新しい技術「大野方式」を考案した。
- 大野方式による「年間400万個の稚貝の確保」を目指す取り組みを、平成29年度からスタートした。
● 活動の効果
- 平成29年度以降、大幅な稚貝密度低下が起こり、稚貝確保400万個には至らなかったものの、参加者を募ったことで多くの漁業者が参加し、平成29~令和元年度にかけては7,500~10,000個の稚貝確保の袋を設置することができた。これは、平成28年度の稚貝密度であれば600万個の稚貝を確保できる量である。
- 稚貝確保の取り組みで回収できた稚貝は、被覆網内に移植され、保護されている。移植先におけるアサリの密度は、大野方式の検討がスタートした平成27年度以降、順調に増加し、活動の成果が表れている。
- 令和2年度には、これまでの漁業の歴史や取り組みが評価され、農林水産祭の最高賞である『天皇杯』を当研究会が受賞した。広島県内での水産部門における天皇杯受賞は43年ぶりで、今後の取り組みの励みとなった。
- 今後も、県などの協力を得ながら稚貝減少の原因究明を図るとともに、稚貝確保や被覆網対策のさらなる取り組みを進めていく。
稚貝確保の取り組み実績
稚貝移植した干潟のアサリ平均密度
『天皇杯』の受賞