干潟は、潮の満ち引きによって、干出(海底が干上がる)と冠水(かんすい:海底が水に浸かる)を繰り返す場所にあり、傾斜がゆるく、内湾や河口付近などにあらわれる。
干潟は、地形的な特徴により3タイプに分けられる。
前浜干潟 | 河口から外の海岸線や沖合いまで広がる干潟 |
河口干潟 | 河口内の静穏な水域周辺に形成される干潟 |
潟湖干潟 | 海から隔てられた湾状の水域に形成される干潟 |
干潟は生物の宝庫。2002年から2004年に実施された全国155箇所(北海道~沖縄)の干潟で環境省が実施した調査では、魚類を含む底生動物が1,667種も確認された。
干潟は、魚介類やヒトにいろいろな「恵み」を与えており、現在、注目されている。また、干潟の前面や以前干潟が存在した浅場域も生物の多様性や水質浄化機能など、様々な機能を持っており、注目されている。
干潟の7つの役割
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- 貝類やエビ類、カニ類、ゴカイ類、魚類、また海藻、海草などの多様な生物の生息・生活場
- 様々な水鳥の生活場、休息場
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- カレイ、ワタリガニなどの様々な魚介類の子どもが育つ場所
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- 私たちが食べる魚介類を育む
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- 干潟表面の付着藻類、泥の中のバクテリア、二枚貝などによる水質の浄化
干潟表面の付着藻類によって赤潮・青潮の原因となる過剰な栄養塩(窒素やリンなど)を吸収し、循環させる
干潟の泥の中のバクテリアによって海水中の窒素を空気に放出し、過剰な栄養塩の除去に貢献
二枚貝等のろ過食性動物による植物プランクトンなどの有機懸濁物を除去し、赤潮や青潮を抑制する
- 干潟表面の付着藻類、泥の中のバクテリア、二枚貝などによる水質の浄化
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- 遠浅な地形によって、沖からの波浪を弱め、海岸をまもる
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- 潮干狩りの場
- 環境学習の場
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- 河川環境や沿岸環境の変化の指標
アサリの水質浄化能力
全国の干潟面積は、自然環境保全基礎調査(環境省)により調べられている。図に示す40年代中頃の面積と90年代後半の面積は、調査対象範囲が若干異なることから、単純に比較はできないが、干潟面積が50年間で大きく減少していることがわかる。
また、40年代中頃の干潟面積とわが国の国土面積を比較すると、その当時の干潟面積においても国土面積の0.2%程度であり、貴重な存在であることがわかる。
干潟の消失は何故おこるの?
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私たちは生活する空間を広げるため、主に近代になって沿岸の浅場を埋立てきた。こうした埋立によって干潟が消失した。こうした犠牲のもと、私たちの生活が成り立っていることを忘れてはならない。
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沿岸開発による干潟の埋立などは、その重要性が注目されていることから、一時期に比べ減少した。しかし、現在、干潟の新たな危機が叫ばれている。
それは、干潟を代表する生き物であるアサリなどの二枚貝の激減である。
アサリ漁獲量の減少の原因として、松川ら(2007年)は、第1に埋立によるアサリ資源の減少を挙げた(わが国のアサリの総需要と総漁獲量10~14万トンの内の8万トンが埋立によって失われた)。また、第2に、アサリ生産を極めて不安定にした貧酸素と青潮の影響を挙げた。更に、こうした要因によるアサリ資源の減少が、漁業の過剰努力を誘発し、漁業の計画性を失わせ、その悪循環の中でアサリ資源が激減したと考察された。
埋立によるアサリ資源の減少は、埋立面積が湾内の極一部であっても、その場がアサリの再生産の重要な場になっている場合は、湾全体のアサリ資源に大きな影響を及ぼしかねない。
なぜだろう?
産まれたばかりのアサリは、海水中を浮遊しており、湾内の流動環境の影響を強く受ける。鈴木ら(2002年)のシミュレーション結果によると、愛知県の三河湾最大のアサリ漁場である一色干潟のアサリの供給源は、その干潟の近傍だけでなく、離れた場所にある三河湾奥の干潟に多く存在していると予測された。すなわち、遠くで産まれたアサリの子どもが、流動環境の影響によって、移動してくるのである。
アサリやハマグリなどの二枚貝は、古来からヒトによって食され、親しまれてきた。また、アサリなどの二枚貝は水質浄化など海の環境を整える大切な役割を担っている。現在の二枚貝資源の減少は、もう一つの干潟の危機なのである。
干潟は、海と陸地との境界に位置し、古くからアサリや海苔など食料供給だけでなく、ヒトが海と身近に触れあえる場として利用されてきた。そして、生き物の宝庫である干潟は、魚介類を育むだけでなく、海の環境を整えるなど、私たちに様々な恩恵を与えてきた。
こうした長い歴史の中で、干潟が現在も利用され続けているのは、藻場と同様に、干潟で育まれる魚介類を通して生計をたてる漁師の存在が大きい。漁師は、自分たちが生きていくために、長い歴史の中で蓄積した知恵や技術によって干潟に手を入れ維持してきた。漁師が海の守人と呼ばれるゆえんが、ここにある。
最近、干潟の減少とともに、その機能が注目され、一般市民などによる干潟の保全活動が行われるようになってきている。しかし、いまだに大部分の干潟は漁師が手入れしているのが現状である。その漁師が、現在大幅に減少し、更に高齢化している・・・干潟をまもり育てる担い手が、急速に減少しているのである。
干潟は、私たちが生活する空間のすぐそばにある。そのため、私たちの生活による影響を川などを通じて強く受ける。潮干狩りなどのレジャーを通して行くことはあっても、普段は身近に感じない干潟・・・しかし、食などを通じて意外に日常的に触れている。まずは、地元の水産物を扱っているお店を訪れ、自分の町の干潟の生き物を探してみよう!興味をもったら、海に行って干潟をみてみよう!そして、自分ができることを探してみよう!何もできなくても、自分の地元の浜であがる魚や貝を食べ、地元の海のファンになろう!
(主な参考書)
環境・生態系保全活動の手引き(水産庁,2009)
第7回自然環境保全基礎調査 浅海域生態系調査(干潟調査)(環境省、2007)
第2回自然環境保全基礎調査 海域調査報告書(環境省,1980)
第5回自然環境保全基礎調査 海辺調査(環境省,1998)
日本水産学会誌74(2)「我が国のアサリ漁獲量激減の要因について(松川康夫ら)」(日本水産学会,2008)
水産海洋研究66(2)「リセプターモードモデルを利用した干潟域に加入する二枚貝浮遊幼生の供給源予測に関する試み(鈴木輝明ら)」(水産海洋学会,2002)