藻場

藻場ってなんだろう?

藻場は、海藻や海草がつくる草原状、森林状の群落である(藤田大介,2009年)。

海藻と海草の違いとは、なんだろう。

海藻は、主に岩礁・転石域に分布し、テングサやフノリなどの紅藻、コンブやヒジキなどの褐藻、アオサやアオノリなどの緑藻の三グループがあり、世界で約20,000種、わが国では約1,400種が確認されている。海草は、主に砂泥域に分布し、陸上で進化した種子植物のうち海に生活の場を戻したアマモなどのグループであり、世界に約60種、わが国では約20種が知られている。

わが国を代表する藻場は、コンブ場、ガラモ場(ホンダワラ類の藻場)、アラメ場、カジメ場、テングサ場、アマモ場などがあり、海岸線から沖におおむね1km、長くても数kmの浅海に分布する。


代表的な藻場の分布や種類
代表的な藻場 基質 分布 主な種 分類 食用
コンブ場
岩礁・
転石
北海道・
東北
マコンブ、
ホソメコンブなど
褐藻植物門 褐藻綱 コンブ目 コンブ科
アラメ場   本州~九州 アラメ、
サガラメなど
カジメ場   本州~九州 カジメ、クロメ、
ツルアラメなど
ガラモ場   全国 ヒジキ、アカモク、
ヨレモクなど
ヒバマタ目 ホンダワラ科
テングサ場   全国 マクサ、
オニクサなど
紅藻植物門 紅藻綱 テングサ目 テングサ科
アマモ場 砂泥 全国 アマモ、コアマモ、
スガモなど
種子植物門 単子葉植物門 オモダカ目 アマモ科  

藻場の役割

藻場は、魚介類やヒトにいろいろな「恵み」を与えており、現在、注目されている。


藻場の7つの役割

  1. 多様な生物の生息・生活場
    • 魚介類の餌となるヨコエビなどの様々な小型の動物が生息
    • 様々な魚介類の生活場
  2. 魚介類を育む
    • トビウオやコウイカなどの様々な魚介類の産卵場
    • 様々な幼稚魚の保育場

  3. ヒトをやしなう
    • 私たちが食べる魚介類を育む
    • 煮物やおひたし、寒天、ダシなどの様々な料理
    • 医薬・化粧品・健康食品などの原料
  4. 海の環境を整える
    • 赤潮・青潮の原因となる過剰な栄養塩(窒素やリンなど)を吸収・滞留し、循環させる
    • 光合成による酸素の放出、二酸化炭素の固定
  5. 海岸をまもる
    • 沖からの波浪を弱め、海岸をまもる
  6. 癒し・学びの場
    • ダイビングや遊漁
    • 環境学習の場
  7. 環境変化のバロメーター
    • 海の栄養状態などの環境指標

藻場の現状

全国の藻場面積は、自然環境保全基礎調査により調べられている。図に示す70年代後半の面積と90年代後半の面積は、調査水深が前者20m以浅、後者10m以浅など調査方法が異なるため単純に比較はできないが、藻場面積が20年間で大きく減少していることがわかる。一般的にわが国の藻場が主に10m以浅に広がっていることを考えると、この状況は危機的な状況である。

また、70年代後半の各藻場面積の合計値とわが国の国土面積を比較すると、その当時の藻場面積においても国土面積の1%未満である。わが国の森林面積が国土の約70%を占めることを考えると、この値は非常に小さく、貴重な存在であることがわかる。

藻場の衰退は何故おこるの?

  1. 直接的な埋立などによる藻場の喪失

    私たちは生活する空間を広げるため、主に近代になって多くの沿岸の浅場を埋立てきた。こうした埋立によって直接的に藻場が喪失した。また、防波堤や港湾などの開発により、藻場が直接埋め立てられた。こうした犠牲のもと、私たちの生活が成り立っていることを忘れてはならない。

  2. 海の砂漠化「磯焼け」

    海藻が生育する空間が失われていないのに、草原状・森林状の藻場が衰退・消失し、焼け跡のようになる現象が、古くからある。この現象を、磯焼けと呼んでいる。藤田(2002)は、「磯焼けは、浅海の岩礁・転石域において、藻場が季節的消長や多少の経年変化の範囲を越えて著しく衰退または消失して貧植生状態となる現象」と定義することができるとしている。


    現在、わが国の藻場は、磯焼けが拡大し、藻場が衰退している。また、各地で磯焼けの進行が報告されている。その発生・進行要因は、複雑で、磯焼け対策ガイドラインでは、以下のように整理されている。

日本で考えられてきた磯焼けの発生または継続の要因(磯焼け対策ガイドライン,2007年)
項目 備考
1 海況の変化 黒潮・対馬暖流の優勢・接岸、親潮第一分岐の離岸、流氷接岸 冬季または夏季の高水温が問題となり、夏季は貧栄養も伴う。流氷接岸は「磯掃除」(雑藻駆除)効果の方が大きい。
2 栄養塩の欠乏 イカゴロ海中投棄の中止、砂防ダムの増加、沢水・河川水の流入減少・拡散阻止 窒素・リン(・鉄?)の不足は、海藻の成長や成熟に影響を及ぼしうる。沿岸・流域の改変や沿岸への栄養塩フィードバックの喪失により、富栄養域の格差助長が懸念される。
3 淡水流入の影響 山林伐採(河川氾濫・一時放水)、原野開拓、豪雨・長雨、ダム廃砂 古くは淡水の低塩分が原因と考えられていたが、実際には出水時の浮泥堆積や海水の濁りの影響が深刻である。
4 天候の異変 台風・暖冬 広域で台風の影響が考えられたのは相模湾西部のキティ台風(1949年)のみ。
5 植食動物の食害 ウニ、サザエ、アメフラシ、小型巻貝、植食性魚類(アイゴ、ブダイ、ノトイスズミ、ニザダイなど)。 ウニ・魚以外は副次的であるが、サザエはテングサ場、アメフラシはワカメ場などで時々問題になる。
6 海底基質の占有 無節サンゴモ、ゴカイ類 無節サンゴモは、食害、波浪、海水の濁り、浮泥の堆積などに強く、海藻が少ない区域(衰退域も含む)で繁茂しやすく、磯焼けの原因よりも結果である。
7 海底基質の埋没 火山灰、漂砂、浮泥 火山灰の被害は、古くは駒ヶ岳、近年は普賢岳や三宅島で起きた。漂砂や浮泥は近年の沿岸・河川の改変と関係が深い。
8 公害 鉱山・工業・生活排水、発電所温排水、河川改修、海岸道路・港湾・護岸工事(特に、埋め立てや沖出し構造物)、圃場整備、農薬。 現在、国内の鉱山は大半が閉山になり、高度成長期に比べて沿岸の汚染も改善されているが、沿岸構造物の増加による静穏化や浮泥の堆積が進んでいる。

藻場とヒトとの共生

海藻は、古くから食料として活用されてきた。現在でもノンカロリー・ヘルシー食品として好まれている。また、ダシ昆布などはわが国の食文化になくてはならない存在である。そして、海藻や海草がつくる草原状、森林状の藻場は、海藻だけでなく多くの魚介類を育み、私たちはその恩恵にあやかっている。

こうした長い歴史の中で、藻場が消滅することなく利用され続けているのは、海藻資源や藻場で育まれる魚介類を通して生計をたてる漁師の存在が大きい。漁師は、自分たちが生きていくために、長い歴史の中で蓄積した知恵や技術によって藻場に手を入れ維持してきた。漁師が海の守人と呼ばれるゆえんが、ここにある。

最近、藻場の減少とともに、その機能が注目され、一般市民などによる藻場の保全活動が行われるようになってきている。しかし、いまだに大部分の藻場は漁師が手入れしているのが現状である。その漁師が、現在大幅に減少し、更に高齢化している・・・藻場をまもり育てる担い手が急速に減少しているのである。

藻場を再生し、豊かな海を次の世代につなごう

藻場は、私たちが生活する空間のすぐそばにある。そのため、私たちの生活による影響を川などを通じて強く受ける。海の中のことでもあり、普段は身近に感じない藻場・・・しかし、、食などを通じて意外に日常的に触れている。まずは、地元の水産物を扱っているお店を訪れ、自分の町の海藻や藻場で育った魚を探してみよう!興味をもったら、海に行って藻場を見てみよう!そして、自分ができることを探してみよう!何もできなくても、自分の地元の浜であがる魚や海藻を食べ、地元の海のファンになろう!

(主な参考書)
水産振興 第499号「藻場の衰退と再生(藤田大介)」(東京水産振興会,2009)
特別展示「海からの恵み 海藻-広がる未来への夢」展示記録(海の博物館,2008)
環境・生態系保全活動の手引き(水産庁,2009)
水産振興 第499号「藻場の衰退と再生(藤田大介)」(東京水産振興会,2009)
第4回自然環境保全基礎調査 海域生物環境調査 第2巻藻場(環境省,1994)
第5回自然環境保全基礎調査 海辺調査(環境省,1998)
日本の統計2009(総務省統計局,2009)
磯焼け 21世紀初頭の藻学現況(藤田大介)(日本藻類学会,2002)
磯焼け対策ガイドライン(全国漁港漁場協会,2007)